ウインドグラジエント (Wind Gradient)

子供のころ地面を歩き回る蟻を観察したことがあるという人は多いのではないかと思う。そのほとんどが一度は蟻を捕まえて手に持ったこともあるだろう。その頃のことを思い出してほしい。蟻は非常に軽くわずか数mg程度の重量しかない。そんな軽い蟻が冬の強い北風が吹くような状況で歩いていたらどうなるでしょうか?だれか風にあおられて宙を飛んでいる蟻を見たことがありますか?たぶんないでしょう。ではなぜ蟻は風が吹いても飛ばないのか?

答えは蟻の足の先端には蛸のような吸盤がついていて引っ付いているからですね!

もちろん違います。この受け答えは私がまだ大学一年でグライダーを始めたばかりのころ、当時4年生の先輩からの質問に対し、文系の学部に通っている同期の新入部員がしたものを再現させてもらいました!もう20年近く前の話なのに良く覚えていますね…

ウインドグラジエントの影響を受けて地面付近では風速が弱まり、地面に接するところではほぼ風は0であるからが正しい答えです。ではウインドグラジエントとはどのような現象か説明します。

地面に平行に風が流れているとします。風は上空に行くほど強くなりある一定の高度以上ではほぼ一定になります。これは空気と地面の間に粘性による摩擦力が生じるためで、地面と接している非常に薄い空気の層はこの摩擦力によって絶対に動くことはありません。その次の層はほんの少し速度をもつ風が生じ、その次の上の層の空気は下の層よりまた少し早い速度の風が生じるというように、地面から離れるごとに少しずつ摩擦力が弱まることで風速が増していくのです。これをグラフにしてあらわしたものが下の図です。地面から地上数mのところでは上空の半分以下の風速になっていてもおかしくないと考えてください。

windgradient

このような状況でランディングをするとします。対地速度が少なくなるよう風に正対するようにアプローチしますので、右から左に向ってアプローチしているとします。例としてアプローチの速度を標準的な飛行速度である36km/hとしましょう。左のケースは上空の風速が3m/sという穏やかなとき、右のケースは8m/sという基本的には飛んではいけない強風のケースだとします。

地上付近では上空の風速の半分になるので、地上付近の風速は左のケースでは1.5m/s、右では4m/sとなります。10m/sの大気速度で飛んでいますが、対地速度は左のケースは8.5m/s、右のケースは6m/sとなります。このとき風速が急激に減少すると風速の減少分大気速度も瞬間的には減速します。左のケースではなんとか持ちこたえることができますが、右のケースでは失速速度に限りなく近づき、風速がもっと落ちるようだと、あるいはランディングに向けたアプローチ中にブレークコードを多少引いていると失速速度以下まで落ちてしまいます。

もちろんグライダーは安定性があるので、風が弱まり瞬間的に大気速度が減った場合その分対地速度を増して大気速度を維持するように動くのですが、瞬間的に大気速度が遅くなった際に失速速度を下回るようだと、回復する充分な高度を持たないアプローチ中は回復前に地面に墜落ということになるでしょう。

ですから風が比較的強い状況下のランディングに向けたアプローチでは充分に大気速度を維持することが必要で、ニュートラルよりもむしろフルグライドでアプローチしても良いくらいです。風が強いということは対地速度は非常にゆっくりなので、高めのパスで進入し速度を維持することが重要です。

またウインドグラジエントはランディングだけで発生する現象ではなく、建物や山など固体の障害物と近い場所では必ず発生します。ですのでリッジソアリングを楽しんでいる際に余りに山肌ぎりぎりに接近してしまうと同じようと思わず失速につながりかねないので注意が必要です。

ちなみにパラグライダーの場合は翼面が自分の体より高い位置にあるのでウインドグラジエントの影響は比較的小さくなる傾向にあります。ハンググライダーやグライダーのように着陸時に翼面がかなり地面と近づく場合がその分影響は大きくなります。

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